アレルギー性鼻炎の自然経過

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アレルギー性鼻炎の長期にわたる自然経過の検討の報告は少ない。

京都府下で1994年から2008年に同一小中学校の生徒を対象として、毎年5月中旬に行われた調査では、13年間にダニ、スギ花粉に対する感作率はそれぞれおおよそ34から41%、39から52%へと増加し、スギ花粉症の有病率も9~13%から25~29%へと増加していた。

1995年から2007年まで実施していた千葉県丸山町での40歳以上の住民を対象とした経年的なアレルギー性鼻炎の疫学調査は、性・年齢構成を考慮したものではないが、700余人の同一住民の10年を超える長期間の検討である。

その結果、ダニ・ハウスダストに対する感作、有病率は40歳以上では加齢とともに減少するが、スギ花粉に対するIgE抗体産生は花粉飛散量に影響を受け、飛散が多い年には40~70代でも感作率、有病率の増加が認められた。

また、これらの中高年者で、大量のスギ花粉飛散が見られた1995年から2005年までの10年間でのスギ花粉症の症状を比較すると、自然寛解が見られる一方で、新規発症も確認され、中高年者でのスギ花粉症の増加を証明する結果であった。

特にスギ花粉抗体陽性者では60代でも70代でも大量の花粉飛散の曝露を受けると抗体価が上昇し発症する危険性があること、また、抗体陰性者でも40代までは感作陽性化、発症の危険性も高まることが示された。

ただ、50歳以上の抗体陰性者では大量の花粉を浴びても抗体獲得の危険性は少ないものと考えられた。

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アレルギー性鼻炎患者数増加の原因

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アレルギー性鼻炎患者が増加している機序については十分に解明されてはいない。アレルギー性鼻炎の発症には複数の遺伝要因と環境要因が関与するが、近年の患者の増加には環境要因が大きく関与していると考えられている。

第一にはダニやスギ花粉といったアレルゲンの増加が指摘されている。確かに居住環境の変化はダニの繁殖に好都合となり、戦後のスギの植林により、花粉を大量に生産する樹齢30年を超えるスギの植生面積が1970年代以降著明に広がっている。

ただし,アレルゲンの増加のみでは地域や集団ごとのアレルギー性鼻炎の罹患の違いを説明できない。食生活の変化、腸内細菌叢の変化、大気汚染などの影響も示唆されている。ディーゼル排出粒子や近年話題となっている黄砂にはIgE抗体産生のアジュバント作用があることが報告されているが、増悪因子としての可能性は強く支持されているものの、発症増加因子としてはいまだ十分明らかにはなっていない。

また、感染症と関連して、特に生後1年程度の期間に感染症に罹患する機会が減ると、その後の免疫の発達に影響を与えてアレルギー疾患を発症する危険性が高まるとする衛生説もよく知られている。

現役薬剤師

感作率、有病率の増加

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採血を含む調査は地域に限定された報告となり、さらに花粉に対するIgE値は年ごとの花粉飛散数の影響を受け、花粉飛散後に高値となり以後減少が見られるといった季節変動も示すため、異なった年代での正確な比較は簡単ではない。

しかし、比較的最近の報告も含めていずれの年代でも高い感作率、有病率が報告されている。

2006年、2007年に福井大学医学部生、看護学科生、ならびに4病院のスタッフ計1,540人、年齢は20歳から49歳の検討ではスギ花粉感作率は45.3%,ダニ感作率は40.7%,スギ花粉症の有病率は36.7%であったと報告されている。

2005年に行った山梨県農村部4小学校の検査でも代表的な吸入アレルゲンに対して高い感作率が見られ、特にスギ花粉では50%を超え,ダニに対しても40%を超えていた。

ただ、年間のスギ花粉飛散量が異なる地域で比較したところ、スギ花粉感作率、有病率に差は見られなかった。また、重複感作も進み、スギ花粉抗体陽性者の重複感作率は80%に達していた。一方、ダニ抗体陽性者の90%はスギ花粉にも陽性であった。

千葉県丸山町での40歳以上の中高年者の検討でも、スギ花粉抗体陽性者の重複感作率は70%(ダニ、カモガヤ、ヨモギの陽性率がそれぞれ33%、49%、26%)を超えていた(2007年の調査)。

一方、発症で見ると、スギ花粉症のみを発症している割合はスギ花粉症の小学生では40%、中高年者では70~80%と高かった。このことは、重複感作、重複発症が進んでいる一方で、国内のアレルギー性鼻炎全体の中でスギ花粉症の占める割合が大きいことを示すものと言える。今後、全国的な規模での詳細な調査が望まれる。

現役薬剤師

アレルギー性鼻炎の疫学

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アレルギー性鼻炎の診断には、詳細な問診と特異IgE抗体検査といったアレルギー検査が必要である。単に質問紙による調査では高い確率で偽陽性が含まれる。

血清IgE抗体検査と質問用紙を用いて2007年に山梨県の農村部の2小学校でアレルギー性鼻炎の検診を行った結果は、スギ花粉症の診断にいかに血液検査と質問の内容が重要かを示している。

質問の内容によっても診節季は大きく異なっている。鼻症状のみと鼻症状に眼症状を加えた評価が大きな違いを生じるのは必ずしも眼症状を伴わないスギ花粉症の存在を示している可能性もあるが、むしろ鼻症状のみでは風邪などの急性感染性鼻炎との鑑別が困難なことを示しているとも考えられる。

医師からスギ花粉症と診断を受けたことがあるかという質問の回答からも正確な診断が必ずしも容易でないことを示している。

しかし,実際には疫学調査では労力、費用の面から詳細な質問とアレルギー検査の実施は容易ではない。

2008年に質問票による全国の耳鼻咽喉科医およびその家族を対象にした有病率の調査が実施されている。この報告は診断精度が高いことが期待されるが、一方で調査集団の偏り、解析手順も含めてpupulation studyには該当しない。

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アレルギー性鼻炎の分類

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国内では、アレルギー性鼻炎は通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎(主に花粉症)に分類されている。

この分類は、持続性アレルギー性鼻炎、間欠性アレルギー性鼻炎といった海外で一般的に用いられている分類法とは異なるが、その背景には日本特有のスギ花粉症の存在がある。

スギ花粉は飛散数が多い上に飛散距離が長く長期間飛散する特徴があり、症状も他の花粉による花粉症とは大きく異なる。同じ持続性に分類されるダニ・ハウスダストを抗原とするアレルギー性鼻炎とは病状、対応も異なる。

また、原因アレルゲンの多くが同定可能なアレルギー性鼻炎では、今後アレルゲン免疫療法が治療の柱になると想定され、アレルゲンの違いに基づいた分類の必要性がある。

通年性アレルギー性鼻炎の原因抗原の90%はダニが占めている。花粉症を引き起こす花粉として国内では60種類以上が知られているが、大別すると樹木花粉と草木花粉になり、前者としてスギ、ヒノキ、シラカバなどが、後者としてはカモガヤ、ヨモギがある。

そのほか、米国で主な花粉抗原とされるブタクサも少なくない。ただ、日本の花粉症の特徴はスギ花粉による花粉症であり、患者数、症状の強さ、罹病期間から他の花粉症とは区別される。

また、ヒノキ花粉は、スギ花粉よりやや粒径は小さいものの、従来よりスギ花粉と共通抗原を持つことが知られている。ヒノキ花粉の主抗原のCho-1は分子量約45万の糖タンパクで375個のアミノ酸からなるが、スギ花粉の主抗原であるCryj1と80%近い高い相同性を持つことが明らかにされている。

ヒノキは関東以西に広く分布し、ヒノキ花粉飛散開始日はスギ花粉飛散の開始に遅れるが、飛散パターンは地域により大きく異なる。

植生面積を見ると、関東、九州ではスギが広いが、東海、中国ではむしろヒノキの植生の方が広い。スギやイネ科の花粉飛散期と重なるため,ヒノキ花粉症については詳細な検討は行われていなかった。

最近、花粉飛散室を用いて行った検討では、スギ花粉に比較して引き起こす鼻症状はマイルドであったが、咳払いなどの喉頭の症状はむしろ強いこと、スギ花粉エキスを用いた免疫療法には一定の効果を示す可能性が示唆されている。

他の花粉症については、最近の増減は必ずしも明らかではなく地域差が大きい。

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